企業の人材確保において「即戦力の確保」と「雇用の安定」は常に大きな課題です。
特にIT・Web業界など変化の激しい領域では、限られた人材をいかに継続的に確保し現場に定着させるかが組織全体のパフォーマンスを左右します。
そんな中、近年注目を集めているのが「無期雇用派遣」という選択肢です。有期雇用派遣とは異なり、派遣スタッフが派遣元企業と期間の定めのない雇用契約を結ぶことで派遣期間の制限を受けずに継続的な人材活用が可能となります。
本記事では無期雇用派遣の基本的な仕組みやメリット、導入時の注意点を網羅的に解説します。また、有期雇用派遣や正社員との違い、実際の活用事例、導入の流れまで企業の人事担当者が知っておくべき実務的なポイントを押さえています。
採用・育成に悩む企業がより柔軟で持続可能な人材戦略を実現するためのヒントとして無期雇用派遣を正しく理解する第一歩を提供します。
無期雇用派遣とは
無期雇用派遣の定義と仕組み
無期雇用派遣とは派遣会社(派遣元)と派遣スタッフの間で期間の定めがない雇用契約を結び、そのスタッフを企業に派遣する雇用形態です。
派遣スタッフは派遣先企業での業務が終了しても派遣元との雇用契約は継続され、次の就業先が決まるまで待機期間として給与の支払いを受けながら研修などを受けることができます。
給与の支払いは派遣元が行い、就業の有無にかかわらず一定の収入が保障される点が大きな特徴です。派遣先企業は業務の指揮命令を行いますが雇用主ではないため、労務管理や評価は派遣元が担います。この仕組みにより派遣先企業はリスクを抑えながら安定的に人材を活用することが可能になります。
有期雇用派遣や正社員との違い
| 項目 | 無期雇用派遣 (常用型派遣) |
有期雇用派遣 (登録型派遣) |
正社員 |
| 雇用主 | 派遣会社 | 派遣会社 | 勤務先の企業 |
| 雇用契約の期間 | 無期 (期間の定めなし) |
有期 (派遣就業期間のみ) |
無期 (期間の定めなし) |
| 給与 | 派遣会社から支払われる | 派遣会社から支払われる | 勤務先の企業から支払われる |
| 待機期間中の給与 | あり | なし | 該当なし |
| 指揮命令者 | 派遣先企業 | 派遣先企業 | 勤務先の企業 |
| 派遣期間制限 (3年ルール) |
対象外 | 対象 | 該当なし |
| 採用・労務管理の負担 | 少ない | 少ない | 大きい |
無期雇用派遣は、有期雇用派遣や正社員と比較して、雇用契約の形態や運用方法に明確な違いがあります。
有期雇用派遣では派遣先での就業期間中のみ雇用契約が成立し、業務終了と同時に契約が終了します。一方で無期雇用派遣は派遣元との契約が継続しているため、派遣期間が終了しても雇い止めのリスクがありません。
正社員との違いは雇用主が自社であるか否かです。
無期雇用派遣では雇用主は派遣元企業であり、給与や福利厚生も派遣元の基準に基づいて提供されます。派遣先企業は人材の労務管理に関する負担が少なく、必要な期間だけ柔軟に人材を活用できるため特に即戦力人材を中長期で必要とする企業にとって有効な手段となります。
無期雇用派遣が注目される背景
企業が無期雇用派遣の導入を検討する背景には労働市場の変化や法改正といった外的要因が大きく関係しています。
この章では制度面・人材確保の観点から注目が高まっている理由を解説します。
労働力不足とミスマッチ問題
日本国内では少子高齢化の影響を受け慢性的な人材不足が深刻化しています。
特にITやクリエイティブ職など専門性の高い分野では採用競争が激しく、必要なスキルを持った人材を安定して確保することが年々難しくなっています。
また、派遣契約は原則として契約期間に上限があるため、契約満了のタイミングでスタッフの入れ替えが必要になることも少なくありません。プロジェクト進行中に担当者が変わることで業務の引き継ぎや進行管理に追加のコストやリスクが生じるケースも見られます。
無期雇用派遣はこのような人材不足や短期的な契約による人材の入れ替わりリスクに対し有効な解決策として注目を集めています。
制度改正と企業側の対応課題
2015年の労働者派遣法改正により有期雇用派遣には「3年ルール」と呼ばれる受け入れ期間の上限が設けられました。これにより同一の派遣スタッフを同一の組織単位(課など)で3年以上継続して受け入れることができなくなり、企業では人材を長期的に活用するうえで制度への対応が必要となっています。
また、労働契約法によって定められた「無期転換ルール」により、有期契約で働く労働者が通算5年を超えて契約更新された場合、労働者からの申し込みに応じて無期雇用へと転換されるようになりました。これにより企業側には法的な理解と計画的な雇用管理が求められるようになっています。
このような制度的背景もあり、契約期間の制限を受けない無期雇用派遣の活用はコンプライアンスを重視しながら柔軟な人材戦略を取りたい企業にとって有効な選択肢として位置づけられています。
無期雇用派遣のメリット
無期雇用派遣は単なる「期間無制限の派遣」ではありません。
人材の定着、コスト削減、組織力の強化など企業側にとって多面的な利点があります。この章では代表的な3つのメリットを具体的に解説します。
個人単位の派遣期間の制限がない
有期雇用派遣の場合、労働者派遣法で定められた「3年ルール」により派遣先の同じ組織単位(課など)では同一の派遣スタッフを原則3年までしか受け入れることができません。
一方、無期雇用派遣で働くスタッフはこの個人単位の期間制限の対象外となります。
そのため、企業は3年の期間に縛られることなく専門スキルを持った人材に同じ部署で長期的に活躍してもらうことが可能です。
継続性が重視されるプロジェクトや基幹業務において担当者が長期にわたり関与できることで業務への習熟度が深まり、生産性の向上にもつながります。
※ただし派遣先の事業所全体で派遣の受け入れ期間が3年を超える場合は、無期雇用派遣であっても派遣先企業が労働組合などへの意見聴取手続きを行う必要があります。
引継ぎや教育コストの削減
有期雇用派遣では契約期間が終了すると人材の交代が発生し、その都度、後任者への引継ぎや再教育が必要になります。
特に専門知識が求められるポジションでは一定の習熟期間が必要なため、担当者の交代は業務効率の低下に直結します。
無期雇用派遣は長期的な就業が前提となるため人材交代の頻度が大幅に減り、引継ぎや教育にかかる手間やコストを最小限に抑えられます。
結果として教育担当者の負担が軽減されるだけでなく、チーム全体の生産性向上にも大きく貢献します。
長期的な定着によるスキル蓄積
無期雇用派遣のスタッフは安定した雇用のもとで長期間同じ職場で働けるため、業務に対する責任感やエンゲージメントが高まりやすい傾向があります。その結果、業務知識やノウハウが組織内に蓄積され企業文化への理解も深まります。
また、派遣元がキャリアアップ支援や研修制度を充実させているケースが多く派遣スタッフ自身の専門性が継続的に高まります。
派遣先企業にとっては単なる労働力の確保にとどまらず、組織の戦力として成長する人材を中長期的に活用できる点が大きな価値となります。
無期雇用派遣のデメリット・注意点
無期雇用派遣には多くの利点がある一方で導入や運用にあたって注意すべきポイントも存在します。
この章では企業側が見落としがちなリスクや事前に理解しておくべき実務上の留意点を整理します。
契約トラブルや実務運用での留意点
無期雇用派遣では雇用契約の主体は派遣元であるため、派遣先企業が派遣契約で定めた範囲を超えて業務を指示したり、労働条件を変更したりすることはできません。これは労働者派遣法第26条に基づくもので、派遣先が一方的に職務内容を拡張したり、待遇面に口を出したりする行為は違法となる可能性があります。
業務内容や責任範囲の認識にズレが生じるとトラブルに発展する可能性があります。
特に、賃金査定に影響するような直接的な人事評価は、雇用主(派遣元)の役割を逸脱した行為であり、「みなし雇用」のリスクを伴うため注意が必要です。
「みなし雇用」とは、労働者派遣法第40条の6に基づく制度で、派遣先が違法な指揮命令や雇用管理を行った場合、派遣労働者との間に直接雇用契約を申し込んだものとみなされる制度です。これに該当すると、派遣先は当該労働者を直接雇用しなければならない義務が生じる恐れがあります。
トラブルを避けるためにもあらかじめ派遣契約書で業務範囲や指揮命令系統を明確にし、コンプライアンスを遵守した運用が不可欠です。
派遣先企業が遵守すべきルールの詳細については厚生労働省の『派遣先が講ずべき措置に関する指針』で確認できます。
必ずしも長期就業が保証されるわけではない
「無期雇用=同じ職場でずっと働いてもらえる」と考えがちですがこれは誤解です。
無期雇用契約はあくまで派遣スタッフと派遣元企業との間で結ばれるものであり、特定の派遣先企業への永続的な就業を保証するものではありません。
派遣スタッフ本人のキャリアプランの変更や派遣元の方針によって契約期間の途中や更新のタイミングで別の企業へ異動となる可能性は十分にあります。
企業側としては「無期雇用派遣だから安心」と考えるのではなく、派遣スタッフが働きがいを感じ、定着したいと思えるような環境づくりを継続的に行うことが重要です。
無期雇用派遣が向いている企業・場面
無期雇用派遣はすべての企業にとって万能な手段ではありません。
しかし、「人材の継続性」や「専門性の蓄積」が事業の競争力に直結する業務では、大きな効果を発揮します。
この章では無期雇用派遣の導入が適しているシーンや業務タイプを具体的に紹介します。
長期プロジェクト・継続的な基幹業務
数カ月から数年単位で取り組むシステム開発や保守運用プロジェクトでは人材の入れ替わりが品質の低下やスケジュールの遅延に直結します。
有期雇用派遣の「3年ルール」では、プロジェクトの途中で主要メンバーの交代を余儀なくされるリスクがあります。
無期雇用派遣であれば同一のスタッフがプロジェクトの開始から完了まで一貫して関与することが可能です。
これにより仕様変更の経緯やドキュメント化されにくいノウハウが失われることなく、安定した業務遂行が実現します。
専門スキルや社内理解が必要な部署
社内ヘルプデスク、経理、人事労務、コールセンターなど、社内ルールや独自システムへの深い理解が求められる部署では担当者の定着が業務の質を大きく左右します。
短期間で担当者が交代すると、その都度教育が必要になるだけでなく問い合わせ対応の品質低下や業務の遅延を招く恐れがあります。
無期雇用派遣を導入すれば業務に精通したスタッフが長期にわたり同じ業務を担当することで、組織内に専門知識や対応ノウハウが蓄積されます。
これにより、担当者の交代のたびに発生していた引き継ぎの手間や業務品質のばらつきがなくなり、常に質の高いパフォーマンスを安定して維持できるのが大きな特長です。
IT・Web業界での無期雇用派遣の活用事例
エンジニア、インフラ、Web制作など、IT・Web業界では、プロジェクトが長期化したり、専門知識が求められる業務が継続的に発生したりするため、人材の安定確保が事業成長の鍵となります。無期雇用派遣は、こうした状況において多様なメリットを提供します。
まず、企画から実行、その後の改善まで、プロジェクトの全工程に同一の人材が関与できるため、フェーズの移行に伴うノウハウの喪失を防ぎ、業務の継続性を強力に担保できます。
また、日々の運用やサポートといった継続的な業務においても、人材が定着することで、頻繁な引継ぎコストやそれに伴うヒューマンエラーのリスクを大幅に低減させることが可能です。
そして最終的には、単なる担当者としてではなくチームの一員として長期的に関与することで事業への理解が深まり、一貫した戦略の実行や迅速なPDCAサイクルを回すといった、より高次元での貢献が期待できるのです。
このように、業務の安定化から事業成長の加速まで、一貫して貢献できるのが無期雇用派遣の大きな特長です。
エンジニア・インフラ・Web制作など幅広い職種での活用例
- 基幹システムや業務アプリ開発を担うSE・プログラマ
システムの刷新や業務効率化ツールの新規開発では、要件定義から設計、開発、運用保守まで、同じ担当者が中長期で関わることが品質維持の観点から理想的です。
無期雇用派遣であれば俗人化しがちな仕様や過去の経緯を熟知した人材の離脱リスクを回避し、安定した開発体制を維持できます。
- 24時間365日稼働のインフラ保守・ネットワーク監視業務
夜勤やシフト勤務が必須となるネットワーク監視センターやサーバー保守業務では短期契約では人材の定着が難しく、専門的な手順の引継ぎコストやヒューマンエラーのリスクが増大しがちです。
無期雇用派遣なら長期的に安定して稼働できる人材を確保しやすく、業務の継続性と信頼性を大幅に向上させることが期待できます。
- Web制作・運用チームにおける即戦力人材の確保
キャンペーンLPの制作やサイトリニューアルのように企画から制作・運用までを一貫して内製チームで対応する場合、Webディレクターやデザイナー、コーダーといった複数職種の連携が不可欠です。
無期雇用派遣を活用することで社内チームの一員として長期的な視点で業務に取り組んでもらえるため、外部パートナーとの煩雑なコミュニケーションコストを削減し、スピーディなサイト改善を実現できます。
typeIT派遣はIT・Web業界に強く、システムエンジニアやプログラマなどの開発領域、ネットワーク・サーバーなどのインフラ領域、WebディレクターやWebデザイナーWebコーダーなどのクリエイティブ領域のスタッフが活躍しています。
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導入の流れとポイント
無期雇用派遣の導入にあたっては通常の派遣と比べて特別な手続きが必要というわけではありません。
しかし長期的な関係性を前提とするからこそ導入前の準備や運用設計が重要です。
この章では導入の一般的な流れと、実務上のポイントを解説します。
導入ステップの概要
まずは業務の内容や求めるスキルセットを明確にしたうえで、派遣会社へ相談するところからスタートします。
派遣会社からの人材提案後、面談(顔合わせ)などを通じて双方の合意が形成されれば、契約に進み就業開始となります。
無期雇用派遣であってもこの一連の流れは通常の派遣契約と大きくは変わりません。企業にとっては導入時の負担が少なく、スムーズに人材を受け入れることができます。
スムーズに運用するための準備
採用後にトラブルを防ぐためには業務範囲や指揮命令のルールを事前に明確にしておくことが重要です。
派遣スタッフがどの業務を担当しどの社員が指示を出すのかを社内で共有しておくことで業務の混乱を防げます。
また、無期雇用派遣スタッフは長期的な戦力として期待されるため初期教育やマニュアルの整備、チームメンバーとのコミュニケーションの機会を確保することも重要です。
派遣だからといって距離を置くのではなくあくまで「一緒に働く仲間」として受け入れることが定着とパフォーマンス向上につながります。
人材派遣を依頼する際のポイントや注意点は以下で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
【メール例文あり】人材派遣を依頼する際のポイントや注意点を解説
法的留意点とコンプライアンス
無期雇用派遣の導入に際しては、労働者派遣法や関連法規に基づいた適正な運用が求められます。
この章では企業が遵守すべき法律上のポイントと実務上の注意点について整理します。
派遣期間制限の適用除外について
無期雇用派遣スタッフは派遣先の同じ組織単位(課など)で3年を超えて働くことを禁じる「個人単位の期間制限」の適用を受けません。
これにより、同一のスタッフが同一部署で長期的に就業することが可能になります。
ただし「事業所単位の期間制限」は無期雇用派遣であっても適用されるため注意が必要です。
これは派遣先のひとつの事業所(工場や支店など)が派遣労働者を受け入れることができる期間が原則3年に制限されるというルールです。
3年を超えて派遣を受け入れる際にはその事業所の過半数労働組合などからの意見聴取手続きが法律で義務付けられており、適切な対応が求められます。
| 期間制限の種類 | 無期雇用派遣のスタッフ | 有期雇用派遣のスタッフ |
| 個人単位の期間制限 (例:A社の営業1課で3年まで) |
適用されない (3年を超えて就業可能) |
適用される (3年が上限) |
| 事業所単位の期間制限 (例:A社の東京本社で3年まで) |
適用される (延長には意見聴取が必要) |
適用される (延長には意見聴取が必要) |
指揮命令と業務範囲の明確化
派遣労働者に対しては派遣先の指揮命令下で業務を行わせることが労働者派遣法で定められています。そのため業務内容や担当範囲、報告ラインは事前に派遣契約で明確に定めておく必要があります。
一方で、無期雇用派遣であっても労働者派遣法に違反する事態は厳に避けなければなりません。
例えば派遣契約で定めた業務範囲を逸脱した指示を恒常的に行ったり、派遣先が派遣スタッフの採用選考を行ったりする行為は重大なコンプライアンス違反となるリスクがあります。
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本記事では無期雇用派遣の仕組みからメリット・デメリット、そして導入における法的留意点までを解説しました。
無期雇用派遣は派遣元企業と無期の雇用契約を結んだ人材を、派遣先企業へ長期的に配置できる仕組みです。
個人単位の期間制限(3年ルール)を受けずに専門性の高い人材を活用できるため、IT・Web業界のように慢性的な人手不足やプロジェクトの長期化が進む分野で特に効果を発揮します。
ただし、そのメリットを最大限に活かすには労働者派遣法の適正な理解が不可欠です。
コンプライアンスを遵守したうえで派遣スタッフが活躍できる環境を整えることが成功の鍵となります。
重要なのは人材を単なる“派遣”として一時的な労働力と捉えるのではなく、事業を共に推進する“パートナー”として組織に迎え入れる視点です。
この姿勢がスタッフの定着と成長を促し、ひいては企業全体の競争力強化へと繋がります。
type IT派遣は、開発・インフラ・クリエイティブ領域など、IT・Web業界の実務に精通した無期雇用派遣スタッフを多数擁しており、企業ごとの課題や現場特性に応じた提案が可能です。
安定的かつ柔軟な人材戦略のパートナーとして、ぜひご活用ください。貴社の状況を丁寧にヒアリングし、最適な人材をご提案いたします。


